使徒言行録 鍵語辞典

(1) 使徒

しと/アポストロス / Apostle(読み/ギリシャ語 /英語)

 使徒は、ギリシャ語の「アポストロス」(ἀπόστολος)に由来し、「派遣された者」という意味をもちます。
 狭義にはイエス・キリストが直接選んだ12人の弟子を指します(マタイ福音書10:2-4)。彼らは主イエスの言葉を最も近くで聴き、その教えを受け取り、十字架を前にしては恐れ逃げ惑ったにもかかわらず、再び復活のキリストに見出され、復活の証人として召し遣わされました。
 十二弟子のひとりイスカリオテのユダが世を去ったとき、残された11人はマティアを選出し、再び12人の集団を形成しました(使徒言行録1:12-26)。これは「十二」という数字が、イスラエルの十二部族になぞらえられる、象徴的かつ神学的な意味合いをもつことを意味します。十二使徒は、神とイスラエルの契約の継承者、新しいイスラエルとしての教会を象徴する存在です。
 一方、広義にはいわゆる十二使徒に限定されない概念として、キリストから召命を受けて福音宣教に従事した人物全般を指します。この定義には、十二使徒以外の人物、特にパウロが含まれます。パウロは使徒言行録や彼の書簡において自らを「使徒」と呼び、復活のキリストとの直接の出会いを基にその資格を主張しています(使徒言行録9章)。
 広義の使徒の存在は、先のマティア同様、十字架以前のキリストが地上で選んだ者に限らず、復活のキリストとの出会いによって使命を受ける者がいることを物語ります。
 また、十二使徒がおもにユダヤ人への宣教を担ったのに対し、パウロは異邦人への伝道を展開し、キリストの福音が特定の民族や地域を超えて普遍的であることを宣べ伝えました。
十字架の日、十二使徒は主イエスから離れ去りました。パウロ(当時は「サウロ」)は、ユダヤ教の熱心な信奉者として、キリストに従う者を迫害する側にいました。そのような者たちが主の復活の証人として用いられる、使徒は神の憐れみを体現します。

村上恵理也